3 優先事項

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『今大丈夫か?』 少し不機嫌そうに聞こえる悠さんの声。 やっぱりこの間のことを怒っているのだろうか。 「ちょうど休憩時間ですから大丈夫です。」 そう答えると今度は慌てたような声に変わる。 『え、そっか、日曜関係ないんだな。悪い!掛け直すよ。』 「大丈夫ですって。まだ入ったばかりだし。」 悠さんからの電話を切るなんてするわけない。 笑いながら伝えると、悪いな早く切るから…と申し訳なさそうな声。 感情が声に表れやすいんだな…そんな事までが愛しく感じる。 重症だな、俺。 『今日、何時に仕事が上がる?』 「今日ですか?7時半には交代ですね。」 時計とシフト表を確認しながら答える。 『会えるか?』 ……! まさかの誘いに一瞬言葉が詰まる。 『都合悪いなら』 「大丈夫です!会えます、会いたいです!」 悠さんの声に被せて答える。 そんなの大丈夫に決まってる! 『そっか。じゃあ、お前のホテルの前で待ってるよ。』 「はい。…ありがとうございます。」 色んな思いが込み上げてそうお礼を言うと、電話の向こうで笑われた。 『お礼の意味がわかんないよ。じゃあ、また後でな。仕事頑張れよ。』 そう言うと、プツッと電話を切ってしまう。 沸々と喜びが沸き上がってくる。 会える。 怒っても嫌ってもいなかった。 さっきとは違う、安心と喜びが混ざった溜め息が口をつく。 「秋山くん?さっき私には用事があるって言ったじゃない。酷くない?」 そう声を掛けられ振り返ると、明らかに不機嫌顔な井上さんが立っていた。 ゴメンね、忘れてた。 「俺の大事な人からだから。こっちが優先。」 ニッコリと笑顔で言うと、クシャッと顔を歪める。 「何それ、意味分かんないし。最低。」 「うん。いいよそれで。」 井上さんの悪態も気にならない。二日振りの笑顔を向け「じゃあね。」と声を掛け部屋を出る。 足取り軽くフロアに入った。 客足が少し止まり、店内は落ち着いていた。 あと三時間。 早く終われ。 仕事が早く終わって欲しいなんて…初めて感じた。
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