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ドクン、ドクン…
心臓、うるさい。
ほら、何か言わないと。
「助けてくれてありがとうございました。」
とっさに出たありきたりなお礼。
「いや、こっちこそ変な断りかたして、悪かったな。」
「いえ、助かりました。ああいう時、どうしたら良いのか分からなくて。そうか、ああ言えば良いのか…」
何とか彼と繋がりをもちたい。
「いやいや、違うと思うけど」
少し困ったように笑う彼の笑顔に、俺もつられて笑う。
…欲しいな…
もっと話がしたい。声を聞きたい。
…彼の香りを抱きしめたい。
自分の気持ちに戸惑いながら、もう一度お礼を言う。
「そんなにお礼言われることじゃないと思うけど。ま、いいや。じゃあな、佐山。」
そう言って彼はまた歩き出そうとする。
ダメだ!
咄嗟に彼の手を掴む。
「俺、佐山じゃありません!」
思いがけず大きな声が出て自分でも驚く。
でも、そんな事言ってられない。
まだ…まだ話がしたい。
「え、そうだろうな…」
彼も驚いたのか、そう言うと黙ってしまった。
そうだ、名前だ。
「俺、秋山って言います。秋山蒼牙…あなたは?」
掴んだ手を握り直して、握手しながら自己紹介する。驚いたような表情をしていた彼は、それでも律儀に返してくれた。
「…篠崎悠」
篠崎悠…彼の名前を心の中で繰り返す。
「篠崎悠」
と思ってたのに声に出てしまったらしく
「いきなり呼び捨てかよ。」
彼の声にハッとする。
「すみません!」
「いや別に良いけど。それより、手離していい?」
「すみません!」
何度も謝る俺を見て悠さんは声を出して笑った。
やっぱり、欲しいな。
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