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夜明けぬ里
今宵もまた鵺が哭く。
ひょおう、ひょおう、と鵺が哭く。
その聲は聴く者によって笑っているようにも、唏いているようにも聴こえると云う。鵺は何が可笑しく、何が悲しいのであろうか。
今宵もまた、鵺が哭く。
* * *
大和国のとある山奧に、夜の明けぬ里があった。
全く以て奇怪なことで、その里ではある日を境にぱったりと夜が明けなくなった。山を下りれば日が昇り、暮れてまた朝が来ると云うのに、ただ里だけに朝が来ぬ。里人たちは困り果て、山の神に供物を捧げたり巫女に祷らせたりしたが、いっかな変化が見られなかった。
日が注がねば作物が育たぬ。作物が育たねば里人が飢える。
里長は頭を痛めた。このままではせっかく山を拓き、巨岩を除けて手に入れた田畠のすべてが無駄になる、と。
さては妖の仕業かと高名な僧を招いてみるも、僧は山に入れなかった。山道へ分け入ったかと思えばすぐに麓へ戻ってしまう。まるで何者かが僧の里へ立ち入ることを、固く拒んでいるようだった。
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