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 これは今から10年ほど前の話だ。  アメリカはニューヨーク、マンハッタン。  アメリカンドリームの聖地とも言うべき劇場街、ブロードウェイを西へ折れたところに、かつてボヘミアンの溜まり場だったブリーカー・ストリートという通りがある。  その通りを更に横道へ逸れた先にある場末の映画館、『Cinema Anthony』。  当時華の17歳(ティーンエイジャー)だった俺は、学生の本業である勉強など景気よく放り出してよくその映画館に通っていた。  シアターは3つだけ。しかも1シアター40席というケチな映画館だ。  建物は古くオンボロで、エントランスを飾っていた赤い看板は塗装が剥げていつ見てもみすぼらしかった。  館内も狭く、カウンターにはいつも無愛想なばあさんが1人だけ。売店なんてもちろんない。  今にして思うと、あれだけ数多くの映画館がひしめき合っているあの界隈で、あんなふざけた映画館が潰れずに残っていたことが不思議だ。いつ訪ねてもシアターはほとんど貸切状態だったから、あるいはあの映画館がどこぞのファミリーの取引場所になっていて、あのばあさんはその上前を()ねていたのでは、なんて想像に走ってしまう。     
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