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 気づけばFartは、俺がシアターに足を運ぶときはいつもそこにいた。映画の趣味が合うのか、はたまた単なる嫌がらせか、俺が映画館に来ていつもの席に腰を下ろすと視界の端には必ずFartの姿があった。  初めは互いにそれほど意識していたつもりはない。  けれど薄暗いシアターでの邂逅がついに7回目を数えたとき、 「お前、こういう映画が好きなのか?」  と、エンドロールを見届けてシアターを出ようとした俺に、後ろからFartがそう声をかけてきた。  Fartも最初はただの興味本位だったのだろう。だから俺は答えた。 「あんたこそ」  と。するとFartは皮肉げに笑った。 「俺は映画なら何でも好きだ。だがお前がここに顔を出すときはいつもマフィアやら殺し屋やらがスクリーンの中で拳銃をぶっ放してる」 「……」  図星だった。俺は知らぬ間に自分の趣味嗜好を探られていたことに一抹の不快感を覚えながらも、「ああ、そうだよ」と答えた。  するとFartは更に冷笑して、 「あんな映画のどこがいいんだ?」  とまったくナンセンスな問いを投げかけてきた。  直前まで俺と2人きり、同じ映画を見ていたとは思えない発言だ。つまらないと思うなら観なければいいのに、少なくともこいつは7回も俺と一緒にフィルム・ノワールを観ていた。     
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