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 なのにそんな頓珍漢なことを言うFartに俺は眉をひそめながら、頭のてっぺんからつま先まで、まじまじとその姿を眺めたのを覚えている。  するとFartはその視線と沈黙とを俺の答えと受け取ったのか、 「晩飯をおごってやる」  そう言った。  俺とFartの特等席争奪戦が始まったのはその頃からだ。  ちなみにその晩、俺はFartによって連れ込まれた怪しげなバーで馬鹿みたいにうまいステーキを1ポンドも食わされ、更には酒まで飲まされた。  念のために言っておくが、当時俺は16歳だ。ニューヨークでは21歳未満の市民が酒を飲むことは固く禁じられている。  なのにFartは平気な顔でカリブ産のキュラソーを「オレンジジュースだ」と言って俺に飲ませた。そのポーカーフェイスに騙された俺はまんまと喉を鳴らしてグラスを(あお)り、翌日二日酔いで学校を休む羽目になった。  癪なのはそれだけじゃない。Fartはその晩、酔っ払ってべろんべろんになった俺からこちらの素性を洗いざらい聞き出しやがった。  そんなことを見ず知らずの男に喋った記憶なんて毛ほどもないのに、Fartは次に会ったとき、 「よう、Brat。酒が飲めないやつに殺し屋なんて務まらんぞ」  と、親にも話したことのない俺のささやかな夢を何もかも知った風に嘲笑しやがったのだ。俺は目の前が真っ暗になった。     
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