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 以来、Fartはことあるごとに〝殺し屋志望〟の俺をからかってくる。たぶん俺みたいなやつが本当に殺し屋になれるなんてハナから思っちゃいないんだろう。「もしお前が殺し屋になれたら、そのときはお前を主人公にしたベストセラーを書いてやる」と笑われた。そのとき俺は――引き金を引くかどうかは未来の自分に委ねるとして――殺し屋になったら真っ先にこのオヤジの眉間に銃口をつきつけてやろうと心に誓った。  だがこうは思わないか?  このクソオヤジは姑息な手段で俺の内臓を暴いたってのに、俺はこいつの腹にメスを入れることさえできないなんて不公平だって。  ここは自由と平等の国アメリカだ。建国の父トーマス・ジェファーソンは独立宣言の中で謳った。〝すべての人間は平等につくられている〟と。  だから俺は俺のやり方でFartの腹を開いてやろうと思った。本人は自分が小説家であること以外、「殺し屋になりたいならそれくらい自分でつきとめろ」と言って名前さえ教えようとしない。まったく、どこまでもふざけたヤツだ。  だがいい。そっちがその気ならお望みどおりにしてやる。  そう思った俺はある日、映画館を出て帰路に就いたFartのあとをひそかに尾行()けた。  3分で撒かれた。  だってあいつ、通りに出るなりタクシーに乗りやがったんだ。俺が一流の殺し屋だったなら自分も別のタクシーを掴まえて、運転手に「あの車を追跡しろ」と言うこともできただろう。     
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