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 すました顔で食べかけのベーグルサンドを掴みながら、Fartは言った。  余談だが、信じられないことにFartの注文したベーグルサンドにはハムもベーコンもスモークサーモンも入っていない。年寄りの胃には重すぎるからと、挟んであるのは定番のクリームチーズとレモンをかけたアボガド、そしてアクセントのマスタードだけだ。こいつはそれでもニューヨーカーのつもりだろうか。まったく歳は取りたくない。 「だから映画みたいに派手だが破綻した話は書かない。いや、書けないんだな。昔から染みついた習慣、あるいは性格みたいなもんだ。ただ上から命ぜられるままに淡々と、誰にも知られることなく、慎重かつ確実にターゲットを殺していく話。そこにはヒーローも悪役もいない。ただ殺す人間と殺される人間がいるだけ……そんな話が世の中に受けると思うか?」 「それがあんたの〝理想の殺し屋〟?」 「殺し屋に理想もクソもあるか。そういう(・・・・)生き物なんだよ、殺し屋ってのは。俺はただその現実に従っているだけだ。そして現実ってのは、往々にしてそういう(・・・・)もんさ」     
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