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 まったく馬鹿げた空想だ。  しかし当時の俺はそんな馬鹿げた空想に耽るのが大好きだった。  いや、(ヤク)がないと生きていけない薬物中毒者(ジャンキー)みたいにハマり込んでいた、と言ってもいい。  『Cinema Anthony』で上映されていた映画はどれも、大通りの大劇場なんかじゃ絶対に上映されないであろうB級映画ばかりだった。あとはごく稀に――こんな言い方をすると意識高いワイン野郎(Frenchman)や皮肉屋なイギリス人(Limey)は憤慨するだろうが――辛気臭くてつまらないフランス映画やイギリス映画なんかも上映していたような気がする。  けれど俺は、隣の席に座っているのがたとえ幽霊だったとしても不思議じゃない、そんなオンボロ映画館で観るB級映画が大好きだった。  それもただのB級映画じゃない。俺が『Cinema Anthony』へ足を運ぶときはいつだってマフィアやギャング、殺し屋と言った裏社会に生きる男たちが主人公の映画が目当てだった。いわゆるサスペンスとかハードボイルドとか呼ばれるジャンルの映画だ。     
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