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ああいうジャンルの映画と『Cinema Anthony』が持つ頽廃的な空気の親和性は異様だった。あのあちこちひび割れたコンクリートの箱の中で観るデカダンス映画はいつだって雰囲気満点だった。
あの独特の空気感は、ニューヨーク広しと言えどきっと『Cinema Anthony』でしか味わえなかったことだろう。
つまるところ『Cinema Anthony』は俺にとっての隠れ家であり、秘密基地であり、アジトだった。あそこへ行けばいつだって手軽に〝俺だけがこの穴場を知っている〟という優越感に浸ることができたし、何だかとても背徳的なことをしている気分になれた。
馬鹿げてると思われるかもしれないが、〝17歳〟と言えば誰しも思い当たるところがあるだろう。
そう、つまり当時の俺はそういうことにひたすら憧れる年頃だった。
あの胸を焦がすほどの憧憬は一体どこからやってきたのか、今思い返してみてもよく分からない。
ただ決められた社会の枠組みだとか、自分に課せられた役割だとか、延々と繰り返されるだけの刺激のない毎日だとか、とにかくそういうものに支配されている息苦しさから逃げ出したかった……のかもしれない。
そんな思いが向かった先がマフィアとか殺し屋とかいう人種が蠢く、いわゆる〝アンダーグラウンド〟と呼ばれる世界だ。
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