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逃げゆく群衆の中で誰かが叫んだ。
そんなの言われなくても見りゃ分かるよ、dumb-ass 。
問題はこのテロを起こしたのがどこのどいつかってことだ。
すべての音が遠く、今まで経験したこともないような耳鳴りが容赦なく鳴り響く中。
俺は隣に立つFartを、茫然と仰ぎ見た。
Fartはまだハートのいたステージを見つめている。
それからゆっくりと俺の方を見て、何か言った。
耳鳴りがひどくて何も聞こえない。
だけど口の動きだけで何となく分かる。
「だから」
「耳を塞げと」
「言ったろう?」
ドッと、心臓を蹴飛ばされたような衝撃が走った。
次に気がついたとき、俺は叫び声を上げて逃げ出していた。
恐慌状態に陥った群衆に紛れて逃げる。逃げる。逃げる。
俺はとんでもない男と知り合ってしまった。
あのテロの犯人が誰かなんて、もう考える必要もなかった。
あいつは殺し屋だ。
あいつがハートを殺した。
だけどどうして?
何のために?
あのオッサンは愛国者に鞍替えしたんじゃなかったのかよ?
嘘だった?
これまで俺の前で見せていた顔は、並べられた言葉は、全部、全部、全部――
ユダに裏切られたキリストは、こんな気持ちだったんだろうか?
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