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現在は『Bleecker Street Movies』というまったくひねりのない名前の映画館が建っている。
客の入りもそこそこの、小綺麗な外観をした映画館だった。
そこに『Cinema Anthony』の面影はどこにもない。唯一共通点があるとすれば、チケット売り場の店員がよぼよぼのばあさんだってことだけ。
この程度の映画館ならブロードウェイにはごろごろしている。ついでに言えば、店員だってもっと若くてセクシーな女が揃っている劇場がたくさん。
なのに俺が今もこの場所に通い続けているのは、10年前のあの頃に未練があるから――ってわけじゃない。
単にこの劇場が、俺の所属するピンツォーロ・ファミリーの所有物だからだ。
10年前のあの事件のあと、俺はクスリに手を出してどっぷりこちら側に浸かってしまった。
裏社会への憧れがクスリを求めたわけじゃない。当時未熟で繊細なティーンエイジャーだった俺は、アレがないと心の均衡が保てないような状態に追い込まれていた。
俺の人生の設計図が音を立てて引き裂かれたのはその頃だ。
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