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 まあ、俺が組織とコンタクトを取る場所として『Bleecker Street Movies』を指定したのだから、仕方がないと言ってしまえばそれまでだが。  この10年でニューヨークの治安は格段に良くなった。それでもまだ好んでレイトショーに足を運ぶような市民は少ない。  だからこの時間帯の『Bleecker Street Movies』はいつも貸切状態で、その方が俺も組織も都合がいいのだった。そういう思惑があって、俺はあの映画館を組織との連絡所に指定した。  だが俺はそれを今、少しだけ後悔している。  どうやら俺は俺が思っていた以上に映画館という空間を神聖視していたみたいだ。  あの場所にやつらが現れる度、俺は俺の思い出を土足で踏み荒らされているような気分になる。そんな感傷はお前には無用の長物だと、お前のような男に救いや赦しを求める資格はないのだと、そう言われているような気分に。  そうするとあの唯一の安らぎの場が、唐突に暗く堅牢な牢獄へと豹変するのだ。  それはさながら俺を閉じ込めている現実の檻のようで。  俺は今もその檻の中で、スクリーンの向こうにありもしない夢を見ている。 「Hi,Cool guy。あたしたちと遊ばない?」  ギラギラとネオンのうるさい大通りを抜け、胸をはだけた女どものお誘いを手を振って軽く躱す。     
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