1人が本棚に入れています
本棚に追加
本当なら今夜は酒でもかっ喰らって女を抱きまくりたい気分だが、そう悠長なことを言っていられないのが実情だ。
俺の上司は殺し屋なんて玩具の兵隊と同じだと思ってるから、ヘマをすればすぐに鉛玉が飛んでくる。ちょっとでもやつの意にそぐわない行動を取れば、殺し屋を殺すための殺し屋が送り込まれてくるってわけだ。
じゃあその殺し屋を殺すための殺し屋がヘマをした場合、殺し屋を殺すための殺し屋を殺すための殺し屋がやってきたりするのだろうか? なんてとりとめもないことを考えながら、俺は咥えた煙草を手で囲って火をつけた。
季節は冬。あと10日もすればクリスマスがやってきて、あっという間にまた年が明ける。
幸い今夜は雪が降る気配はないが、それでも12月のニューヨークはシャレにならないほど寒かった。高層ビルの間を吹き抜けるビル風が容赦なく地上に吹きつけるからだ。
俺は革の手袋を嵌めた両手を擦り合わせながら、マフラーを巻いた首を竦めて先を急いだ。
ブロードウェイを東へ横切り1番街へ。
そこにある軽食屋入りの安アパート。
その3階の角部屋が最近の俺のアジトだ。
「ったく、面倒なことになったな……」
最初のコメントを投稿しよう!