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 もちろん〝Fart〟というのも名前じゃない。まあ、一言で言うなれば〝クソジジイ〟。そんな意味だ。 「相変わらず失礼なやつだな。せっかくこうしてお前の特等席を温めてやってたってのに」 「Wow、そいつは最高だ。おまけに枯れたオッサンの加齢と煙草の臭いつきってか?」 「ああ、そうだ、感謝しろ。今なら特別に10ドルでこの席を譲ってやる。これだけのサービスがついてこの値段は格安だぞ」 「Get fucked,bum」  〝クソ喰らえ〟。忌々しい思いでそう吐き捨てながら、俺はフットライトに照らされた階段を不機嫌に上った。  そうしてオッサンに陣取られた特等席から2つほど離れた席に腰を下ろす。スクリーンに対してちょっと右に寄っているが、今日も俺は負けたのだ。仕方がない。 「最近よく来るな、あんた。相変わらず暇なの?」 「暇じゃあないさ。だからこうして息抜きに来てる」 「馬鹿言え。本当に売れっ子作家なら、朝っぱらからこんなシケた映画館でガキ相手に小銭をせびったりするもんか」 「お前、どうして俺が小説家なんてケチな職業に就いたと思ってる? 毎日が安息日だからさ」 「そんなに信心深いならミサに行けよ。あんたが売れないのはミサをサボってるからだぞ」 「お前はどうしても俺を売れない作家にしたいようだな」     
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