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 見た目は54、5歳と言ったところか。黒い髪に白髪が混ざりまくってるわりには背筋もしゃんとしていて背が高い。顔つきは黙っていればそれなりの紳士に見えるはずだ。ただし、あくまで黙っていればの話。  ムカつくのは今日みたいにラフな襟つきの黒シャツを着ているだけでも、そこそこ品のいい男に見えることだ。アレと同じシャツをうちの父さんが着ていたらどうだろう。きっとただのくたびれたサラリーマンにしか見えないに違いない。  その差を言葉で言い表すなら……Ummm……たぶん、〝渋み〟とか〝貫禄〟とかだろうか。認めるのは癪だがこのオッサンはそこそこ顔がいい。若い頃は女にもそこそこモテただろう。そこそこな。  俺がこのオッサンと出会ったのは今から1年くらい前のこと。その当時から俺は既に犯罪映画(フィルム・ノワール)の虜で、この『Cinema Anthony』にも頻繁に出入りしていた。  だがここまで人の出入りが少ない映画館に足繁く通っていると、自然、他の常連客の数や顔が分かってくる。俺は毎度のようにこの狭いシアターの真ん中でフレンチフライを貪りながら、次第にある1人の男の存在が気になるようになっていった。  それが〝Fart〟。  このイケ好かない小説家だ。     
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