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1.
鏡の前で、シュッと紺のネクタイを締めた。
同じ色の、袖に黄色いラインの走った上着をまとい、ボタンを閉める。
サイドテーブルに置いていた制帽を取り、部屋を出た。
燦々と朝日が射し込むキッチンでは、妻のアイリーンが朝食の支度をしている。
ベーコンの焼ける匂い。
レタスを刻む音。
ドリップマシンから立ち上るコーヒーの香り……。
「おはよう、アイリーン」
「あら、おはよう、マイソン。ジョーイを見なかった?」
「いや、見てないが。もう起きてるのか?」
「さっき起こしに行ったんだけど。今日はあなたがあの子を送ってくれるって約束でしょ?」
「ああ。だがまだ六時半だ」
「ダメよ。あの子、早めに起こさないとのんびり屋さんなんだから」
苦笑しながらそう言って、エプロン姿のアイリーンは一度キッチンを離れた。フローリングを鳴らしながら廊下へ出ていき、白い階段の下から息子を呼んでいる。
マイソンはそんな妻の、白いうなじから零れた後れ毛を後目に見ながら、彼女が用意していたベーグルにベーコン、チーズ、そしてレタスを挟んだ。三人分。
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