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庭の芝生や立ち並ぶ街路樹はまだまだ緑を湛えてはいるが、ここへ戻ってくる度に少しずつ色褪せていっているような気がする。きっと街はあっという間に衣替えし、ふと気づく頃にはあちこちにジャック・オ・ランタンが溢れていることだろう。
マイソンは元気良く庭を駆け回る我が子を眺めながら目を細める。今年のハロウィンは家族と共にいられるだろうか。もしも休日をもらえたら、アイリーンとジョーイを連れてセントラルパークまで出かけよう。
マイソンにとって、この世は物騒で残酷で救い難い、ものだった。
けれども今は、
「――マイソン」
不意に名を呼ばれ、振り返る。途端にぐいと頭を引かれ、唇に温かなものを感じた。
驚いて目を丸くすると、すぐそこでアイリーンが悪戯っぽく微笑んでいる。少し困ったような、諦めたような、けれど本当は何もかも理解している顔で。
「いってらっしゃい。無事に帰ってきてね」
マイソンは、何か気の利いた言葉でも返そうと口を開いた。けれどそこから言葉が漏れるよりも早く、車の傍まで行ったジョーイが「パパー、はやくー!」と急かしてくる。
後ろから聞こえる幼い催促に苦笑して、マイソンはアイリーンと額を合わせた。
アイリーンの白い鼻と、マイソンの黒い鼻が触れそうになる。
マイソンは笑った。
「行ってくる」
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