おもひで列車

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おもひで列車

 目が覚めると、ぼくは知らない駅にいた。  強い西日が射している。今、何時だろう。いや、その前に、ここはどこだろう?  ぼんやりと開いた眼の先には、ぼくを外へと促すように開いた乗車口。それにしても静かだ。先頭車両の隅っこで、いつの間にか壁に体を預けて眠っていたぼくは、かすむ目を擦りながら体を起こしてみる。……だれもいない。 「……ここ、どこ?」  電車がまったく動かないところを見ると、ここは終着駅だろうか。だとしたらぼくは終点まで寝すごしてしまって、他のお客さんたちはとっくにみんな降りてしまったに違いない。  それならそれで、だれかひとりくらい起こしてくれたっていいのに。ぼくは寝すごしてしまった自分の(とが)を他人になすりつけながら、ようよう立ち上がって外へ出た。座り心地のいい、緑色のふかふかしたシートに別れを告げるのは名残惜しかったけれど、そもそもぼくが目的地へ向かう途中でうっかり眠ってしまったのもあのシートが気持ち良すぎたせいだ。くそう。  乗車口を抜けてホームに降り立つと、遠くからカナカナカナカナ……という蝉の声が聞こえた。     
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