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驚いて振り向けば、さっきまでぼくのゆりかごだった列車のドアが閉じている。かと思えば列車は金属のこすれる音を上げ、ゆっくりと動き始めた。
「あ、あ……ま、待って!」
置いていかれる。そう思ったぼくは慌てて走り出した。鮮やかな緑のラインが走った四両編成の鉄のゆりかごは、そんなぼくを後目に無情にも速度を上げていく。
そうしてぼくがホームの終わり、そこで鉄格子みたいな錆色の柵に通せんぼされたときには、列車は悠々とその巨体を揺らし、ゆるやかにカーブを描く線路の向こうへ消えてしまった。
ああ、どうしよう。ぽつねんとホームに取り残されたぼくは途方に暮れる。
ここには駅員さんもいなければ道を尋ねられそうな、親切そうな大人もいない。ほんとうにぼくひとりぽっちだ。こんな得体の知れない、わけの分からない場所でたったひとり残されて、ぼくはこれからどうすればいいのだろう?
「弱ったなぁ……」
「やあ。何かお困りかい?」
そのとき、突然すぐそばからぼく以外の声が聞こえた。
驚いて振り返ると、その先にはさっきぼくを通せんぼした鉄の柵がある。そしてその上にぽつんと乗った黄緑色。
「アキツキ・タクト君だよね?」
と、その黄緑色はぼくに言った。ぼくは驚きすぎて声も出なかった。
「アキツキ・タクト君でしょ?」
「か、カエルが……」
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