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家を取り壊すことが決まった時の気持ちはあまり覚えていない。
考えると泣きそうな気持ちになるからあえて深く考えないようにしていたからだ。
小さい頃から大学に出るまでずっと住んでいた家。
実家を離れる時が来ても帰ってくる場所はここだと思ってた。
そう信じて疑いもしなかった。
まさか無くなる日が来るなんて、思いもしなかった。
それから1年後のお盆にお墓参りに出かけた際、車で取り壊された家の前を通った。
平地になった家の跡地。
(ああ、本当にもうないんだな)
確かにここに在ったはずの家が、跡形もなく無くなってしまった事実を突き付けられた気がした。
悲しくなって堪らずに視線を逸らした。
直視することが出来なかった。
大学を出て社会人になり、今も地元と離れたところで生活する日々。
数年経った後もお盆に帰省しお墓参りに向かう途中にその場所を通ると胸が痛んで仕方なかった。
昨年秋。
いつもならお盆の時期に帰省していたところ、仕事の都合で9月の半ばに帰省した。
遅くなってしまったお墓参りに家族で出かけた時、あの家の前を通った。
その時、車を運転していた父が言った。
「コスモスが咲いてる」
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