第一幕》濁り、雷鳴

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「いるなら出てこい」 玄参(げんさん)は一つ呼吸を置き声を凄ませる。 一拍間を置いて、声に応じるように、馬の骸からよろよろと小さな影が出てくる。 両腕を使い、ずるずると下半身を引きずるその様は水に棲まう妖を思わせた。 こちらを見上げる目は虚ろで焦点が定まらない。 まだ齢が片手で数えられるほどの人間の子供であった。 消えていた花の匂いが再び香る。 それは明らかにその童から、その童の胸に咲く“花”から漂っていた。 「......あ......ね」 その口から言葉になりきれぬ音が漏れる。 童は何度か口をぱくぱくさせると、糸が切れたようにどさりと地面に倒れ伏した。 玄参(げんさん)は短刀を投げ捨て、駆け寄る。 「おい、坊主!大丈夫か!しっかりしろ!」 玄参(げんさん)は骨と革ばかりのか細い肩をしっかりと掴み寄せる。?を軽く張っても反応は無い。 薄れゆく花の匂い。
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