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何とか悶絶したいのを堪える。 歳の、離れた、兄弟って、こんなに可愛いものなのか!? 俺にはわかる!鉄面皮の八潮でさえでれでれだ。 「…あの、」 「ーん、ん?」 「渚さん、って…パン屋さん、ですか?父さんはいつも秘密のパン屋さんでクロワッサン買ってくる…」 「あぁ、あー!そうだよ俺パン屋さん!俺が秘密のパン屋だ。優人さんとうちの母親、俺んとこのパン屋さんで出会ったの」 「…え」 「聞きたい?」 興味深そうに俺をジッと見てくるもんで、嬉しくて表情筋が緩む緩む。 案の定頷く波留に、クロワッサンを齧らせながら二人の話を聞かせた。 波留は幸せそうで、どうしてか俺の方が泣けた。 波留も優人さんとの思い出話しを沢山してくれた。 堪らず泣き出す事もあったけど、波留が思い付く限りの話しを八潮と二人で聞いた。 吐き出させる事が大事だと思う、波留は内に溜めるからと優人さんが言っていたから。 話し、泣き疲れた波留は、八潮の胸を借りて眠っている。 時折思い出した様に、閉じた目から涙の粒が溢れる事がある。 優人さんが遺した最愛の人、どうか早く元気な笑顔を俺たちに見せて。 それから数日かけ、八潮と二人で手分けして葬儀から全部を終わらせた。 波留はたまに、優人さんを思い出して涙を流す。 大切な人を亡くした人は、完全に立ち直る事なんてないのだろう。 波留はずっと、愛しい人を思い出しては恋しくて涙するんだと思う。 俺も八潮も、そんな波留を支えていくんだ、この先ずっと。 大切な家族だから。
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