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今日はなんとなく、つい出来心で寝たふりをしてみた。
「波留、波留?」
「寝たか?」
「ん、部屋に運ぶ」
「今日は俺の番だ渚」
頭の上で交わされる会話。
穏やかな声と、触れる部分から伝わる優しい振動。
傷心した心は、過保護な兄達のお陰ですっかり穏やか。
僕の身体を易々と抱き上げた八潮さんは、二階の部屋に向かった。
(…ぁ、階段)
少し怖くて身体が強張ったら、八潮さんが笑った気配がした。
階段を上がりながら、彼は言う。
「…甘え上手だな、波留は」
「ーーっ、ごめん、なさい…」
「そのまま、捕まっていろ」
寝たふりがバレた僕はくつくつ笑う八潮さんの首にしがみつく、するときゅっと抱きしめられた。
そうしているうちに階段を上がりきり、部屋に着くと僕をベットへ下ろし、八潮さんも横に座った。
「あの、僕…」
「良く眠れる様になったな」
「…ぁ」
八潮さんの指先が、頬を辿る。
その指が額を覆う髪を避け、現れたそこに唇が触れた。
「ーーッ~!!」
「……お休み、波留」
ベットが軋み、離れてゆく温もり、ジッと見つめてくる瞳が、僕に否を言わせない。
甘える事に慣れてしまうのが怖い。
恥ずかしいので、二人の前では、うたた寝しないように頑張ろうと思います。
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