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side八潮 母を愛した優人さんが亡くなって暫く、彼が遺した彼の最愛の人は大学受験の真っ只中だ。波留はいまでもあの赤い屋根の白い壁の小さな戸建ての家に一人で住んでいて、リビングに置いてある小さな仏壇には、優人さんと波留のお母さんの位牌が並んでいる。 俺と渚は度々家に通っては様子を見守っているのだが、最近受験勉強に明け暮れてナーバスになっている波留が少々心配である。 そして問題がもう一つ。 「で、引っ越さざる負えないと」 「はい」 珍しく波留から連絡をしてきた今日、家を訪ねると切り出された話がこれだ。 波留の家のある一帯が、土地開発でマンション建設の為立ち退きの対象になったと言う。酷く落ち込んで肩を落とす波留の頭を撫でた。本人は立ち退きなどしたくないのだろう、家族の思い出が詰まった家であるしと思ったが、よくよく話しを聞けば、仕方がないと受け止めている様で、何に悩んでいるのかと思えば…。 「どうやって次の家決めたらいいかわからなくて」 との事だった。優人さんが遺した保険金でマンションを買うべきか、賃貸にするか。今の家を売ったら新しい住居の頭金の足しになるかと、案外現実的な相談で拍子抜けした。正直なところ、立ち退きたくない、寂し、悲しいと縋ってくるのかと身構えたからだ。それだけ前向きならばと、前から渚と考えていた事をここぞとばかりに提案した。 「一緒に住まないか」 「…一緒に?」 「渚と話していたんだ、三人で住まないか?」 その時の波留の目はまん丸で、驚きに満ち溢れていた。
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