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side波留
引っ越しを、しなければいけなくなった。
思い出が沢山あるから寂しいし、出来る事なら立ち退きたくはないけれど仕方がないとも思う。
そう思える様になったのも、血の繋がらない兄達のおかげで。そんな二人に一緒に住まないかと言われた。
ちょっと顔が怖いけど、優しい八潮さん。いつも明るくて、元気を分けてくれる渚さん。まだ半年程の付き合いだけど、二人は僕を家族だと言う。
嬉しい半分、戸惑い半分。
一人っ子の僕に兄弟の距離感なんて、わからない。八潮さんも渚さんも僕に良く触れる。頭や頬をなでるのはもちろん、旋毛に口付けされた時には顔から火が出るかと思った。友達にそれとなく相談したら、それはブラコンですと言われたけれど、僕にはそれさえも、やっぱよくわからない。優しい二人は嫌いじゃない、好きか嫌いかなら、迷う事なく好きだ。スキンシップだって嫌じゃない。
もしかしたら僕は、父さんが亡くなって、二人に甘えすぎたのかもしれない。一緒に住んだとして、シュミレートしてみた。いつか二人も結婚して、それぞれに家庭を持つんだと思う。
そうなると、賑やかだった広い家でまた一人きり、きっと今より寂しくなる。
寂しくて、悲しい。
「だから、一緒には住めません。ごめんなさい」
僕なりの結論を持って、二人に気持ちを伝えに来た今日。八潮さんと渚さんと、ダイニングテーブルを挟んで向き合う様に座った僕は、膝の上で手を握ってごめんなさいと謝った。
二人は困った様に顔を顰めてどうしたものかと唸っている。
僕は決心した、二人に心配かけない様に、小さなマンションの一部屋を購入して、独り立ちしようと。心の中の僕がぐっと拳を握って頑張れって言っている。
父さんも母さんも、僕が独り立ちできたら嬉しいだろう。
だけど、意を決して意思表明したと言うのに、目の前の二人は納得がいかないと言う顔をした。そんな顔をされたら、僕の決心は簡単に揺らいでしまう。
視線は自然と下に落ちた。
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