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波留の視線はだんだんと下を向く。 「…そっか、」 「波留?」 顔を上げた波留はあからさまに落ち込んで、申し訳なさそうに笑っていた。 「そうだよね、ずっと続く訳ないんだ…。僕、八潮さんと渚さんが結婚したらやだなって未来の事ばっかり考えてたけど、」 「波留ちゃん?」 柔い心を抉っては、優人さんが亡くなってから暫く、やっと引っ込んだ弱虫を引っ張りだす。幼くして大切な人との離別を人より多く経験した波留は、一人になる事に酷く臆病だ。赤い屋根の家で、帰宅した波留にお帰りと言えば、無意識にほっとした顔を見せる。その度に俺も八潮も、もっと頼ってくれたら…いっそのこと、このまま依存でもしてくれたらいいのにと思うのだ。 涙で一杯になった瞳が俺と八潮を見ていた。 「後にも先にも一人になるなら、早い方がいいです」 「ーー波留!!」 ガタンと派手な音を立て立ち上がった波留は足元に置いてあった鞄をひっ掴み、玄関の方へと駆けてゆく。胸が痛むが仕方ない、俺は抱えた頭を掻きむしった。パタパタとスリッパを引き摺る音が遠くへ行く。八潮は黙って俺を睨め付ける、その視線がどうするつもりだと雄弁に語っていた。 「八潮、俺を怒鳴れ」 「…は?」 「は?じゃねえよ、早く怒鳴れ」 顔をむっと顰めた八潮は、組んだ腕はそのままに大きな溜息を吐くと、玄関で靴を履いているであろう波留に聞こえる様、腹から大きな声を出した。 「ーー馬鹿渚!追えっ!!」 「…上出来」 俺もバタバタと態とらしく大きな音を立てて波留のいる玄関へと向かった。
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