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僕の膝の上で重ねられていた優子さんの手を、そっと握りお願いした。 優子さんは一瞬息を飲んだけれど そうねと言って微笑み、僕と手を繋いで立ち上がった。 170㎝を超えない僕と、同じくらいの背丈の優子さん。 彼女から名前の通り優しい匂いがした。 八潮さんと渚さんも黙って僕たちの後ろをついてくる。 みんなで安置室に入って、父の顔を見た。 父に縋って泣く優子さん、優子さんに寄り添って、小さな肩や背中を摩る八潮さんと渚さん。 僕は少し後ろから、まるで他人事の様にその姿を眺めていた。 三人とも泣いていた。 僕だけは、やっぱり泣けなかった。 夕方、空はオレンジ色に色づき、空気は冷たい。 「ありがとうございました、葬儀については追って連絡します」 「俺たちも手伝おう、全部自分で抱える必要なんてない」 「…お心遣いありがとうございます、でも大丈夫です」 「波留、頼って欲しいんだよ」 一人で出来ますと言う僕に、渚さんは困った様に笑った。 そんな風に笑わないで欲しい。 八潮さんは寂しそうに僕の名を呼ぶ、そんな風に名前を呼ばないで欲しい。 父が亡くなった。一人になった僕を憐れんで、家族になった様な真似はしなくていい。 捻くれた僕は、彼等の優しさを真っ直ぐに受け止める事が出来なくて、下唇を噛んだ。
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