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side八潮
最近優人さんに見せてもらった写真より、少しばかし大人びた波留は、それでもまだ幼さを残す愛らしい人だった。
長椅子に項垂れて座る姿は痛ましく、直ぐにもかき抱いてやりたい。
触れた手は冷たくて、その瞳に光はなく、まるで生きる力を失った様だった。
涙一つ見せない波留は、母の手を取り優人さんの元へと導いて行くと、優人さんに縋り啜り泣く母を後ろから見ていた。
やっぱり、泣いてはいなかった。
病院を出たら少し話そうとカフェに誘うも、ごめんなさい、今は一人になりたいと言って頭を下げる。写真の中の華やぐ笑顔を知っている、だからこそ、無表情な彼を尚の事放ってはおけない。
一人で泣くのかと思うと胸が痛む。
一人で抱えるなと言っても、頼れと言っても困り果てた様に肩を落とす波留は、本当に一人で葬儀を行うつもりの様だった。
『葬儀については追って連絡します』
何を言っても、そればかり呪文の様に繰り返す彼は、ぺこりと頭を下げて帰っていった。
「八潮、あのまま波留をほっとけないぞ」
「わかっている」
去っていく小さな背中を見つめ、渚と顔を見合わせた。
放っておくつもりなんてさらさらない。
失意の底で人が取る行動を幾つか想像して、肝が冷える思いだ。
母を心から愛してくれた優人さん、彼が遺した波留を、自分たちが大切に守ってやらねばならないと思うのだ。
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