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家に着く頃には、すっかり日も暮れていた。 どうやって帰ってきたかなんて記憶にない。 鍵を開けて玄関へ入ると耳鳴りがした。 『波留、帰ったのか?お帰りー』 間延びした父さんの声が聞こえた気がした。 頭の片隅に父さんがいる、ツキンとするあの妙な感覚。 玄関には僕のスニーカーしかない、父さんの仕事用の革靴を思い出すと、今度は玄関のドアが開いて父さんが今にも帰ってくる様な錯覚に見舞われた。 『ただいまー、波留どうした?こんな所に突っ立ってないで早く入りなさい』 父さんの残像が僕の身体をすり抜けていく、目眩がした。 堪らず目頭を押さえると、今度は息ができなくなった。 はっはっと短く呼吸をして、嗚咽を堪える。 リビングに続く廊下はひんやりしていて、その向こうはもちろん真っ暗だ。 もう帰ってくる事のない父の姿を思って、真っ暗なリビングに直面して、人の気配のない家に打ちひしがれて今、やっと一人ぼっちになったのだと頭が理解した。 僕の心臓はドッドッドッと強く打ち鳴って、今にも壊れてしまいそうだった。 膝から力が抜けてその場に蹲る。 爪が手の平に食い込む程、両手を強く握りしめたのに、全然痛みは感じなかった。 「…た、ただいまッ、父さ、ん」 『お帰り波留』 「おそ、おそくなッ、て…ごめん、な、ごめんなさいッ」 『波留、夕飯できてるよ。早く手を洗っておいで』 「ーーおと、お父さ、んッ!!」 『ーー波留ー』 「お、父さん、父さんーーっ!」 もうダメだった、とうとう涙腺は決壊してしまった。
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