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遠くで誰かが焦った様に僕の名前を呼んでいる。
もう何も聞きたくなくて、聴覚さえもシャットダウンしようとした時だった。
「波留っ!ーー八潮、波留がッ!!」
「ーー波留ッ!?目を覚ませッ!」
「息してねぇッ!救急車呼べ!」
慌てた様子の向こうで、波留と僕の名を呼ぶ大好きな声がする。
『ー波留、こんな所で寝てはダメだよ』
「優人さん、頼む!波留を連れてかないでくれッ!」
「波留、息をしろッ!!」
『起きなさい波留。ほら、大きく息をするんだよ、できるだろう?』
僕はお父さんの所に行きたいのに…どうして?
『はは、それはまだ、早いんじゃないかなぁ?』
寂しい、帰ってきて、会いたいよ、お父さん。
『ごめんな、帰る事はもう出来ないけれど、いつだって側にいるさ、愛しているよ波留』
僕も、大好きだよ…お父さん。
『ーずっと、愛しているよ波留』
お父さん、お父さん、大好き…僕も一杯愛してる。
父さんが笑った気がした。
『波留、ほら…起きなさい、波留』
「ーーーひぃっ、ふ、ふ、ッ…ん」
「波留!そうだ、息をするんだ!」
「ん、ふぅー、ぅんッ……」
「いい子だ波留、生きるんだ、俺たちと一緒に、波留」
背中がしなって、張り付いていた喉が剥がれ、引き攣る様に息をした。
大きな手が身体を摩り、誰かが僕を抱きしめている。
あったかい、身体も心も、あったかいなぁ。
大きな何かに包まれ、深く息を吸って、長く吐き出すと、冷たい何かが全部抜けていった気がした。
僕が覚えているのは、ここまでだ。
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