桜・・・花散る敵討ち

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病院から家に帰る途中の川沿いの桜並木に差し掛かった時・・・声変わりしたばかりの少年の声がした・・・。 「やい、『鬼姫』・・・勝負じゃき!」 桜の木の陰から現れた少年は、沈みゆく夕日をバックに、竹刀を中段に構えて、歩いてくる女子高生に向かって言った・・・。 「よか・・・貴サンもホンに懲りんとね・・・。」 女子高生は、古びた学生鞄と、背中に背負っていたナップ・ザック・・・そして、竹刀袋を降ろすと言った。 「お前んせいで、姉ちゃんは・・・県大会にも出れんと、今は病院じゃ・・・。 こん杉田尚輝・・・姉、杉田美穂の仇ば討ちよるけえ・・・名あば、名のりんしゃい!」 祖の啖呵に、笹井桂は・・・何回目かのセリフを言上した。 「問われて名乗るんも烏滸がましけんが・・・わあは、芦高剣道部2年笹井桂じゃき・・・仇討ち・・・ちゅうなら上等じゃ、返り討ちにしようけん、覚悟せいや。」 笹井桂は、そう言うと・・・竹刀袋の中から一本の竹刀を抜き出すと、鍔入れから鍔と鍔止めを取り出して・・・きゅっと竹刀の握りから押し込むと・・・片手で・・・ぶん・・・と、振ってから続けて・・・言った。 「貴サン・・・今で何度目じゃ?」 「お・・・おう!3度目じゃ!」 竹刀の先端を身体の震えが乗り移ったかのように・・・震わせながら、少年は大きな声で答えた。 「まっこち・・・もう、わあに敵わんこんば分かりもそうぞ?」 「儂わのう・・・姉ちゃんの仇を取るまでは、なんでんかんでん貴サンに挑戦ばしちゃるけん・・・。」 眼が真っ直ぐな少年を見て・・・桂はすっと・・・左上段に構えながら言った。
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