16人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「りの、遅刻する」
「ま、待って京ちゃん!」
「弁当忘れる気?」
「はわあああ!」
慌ただしい毎朝の風景。わたし、相原りの。この春高校生になりました!
けれど、
「あのね、京ちゃん……昼休み、英語教えてもらいに行っていい?」
「……別にいいけど、君いいかげん友達作ったら?」
「だ、だってぇ……」
入学して二カ月が経とうとしているというのに、人見知りな性格のせいで、わたしにはなかなか友達が出来ない。
(救いは、京ちゃんが同じ学校ってところよね……。)
島津京――小さい頃からの癖で今も『京ちゃん』って呼んでるんだけど――は、一つ年上の幼馴染。吊り上がった目と不愛想な口調のせいで冷たそうにみえるけど、こうしていつもわたしの面倒を見てくれる優しい人なの。
昼休みを告げるチャイムが鳴り、わたしはお弁当と英語のノートを持って廊下を歩く。 京ちゃんの教室は一年生の階の一つ下。階段を降りると途端に先輩たちの姿が目に入るからいつも緊張するけど、こればかりは仕方がないよね……。
(勇気を出すのよ、りの!)
わたしは自分を励ましながら、京ちゃんの教室を覗き込んだ。
「お前はいいよなぁ、あの幼馴染の女の子といつも一緒ジャン」
ふと耳に入った声に、私はドキリとした。
(わたしの、話?)
扉の影にとっさに隠れて、中をうかがう。すると、京ちゃんが友達と話しているところが見えた。
「別に」
(あ、京ちゃんの口癖。)
慣れ親しんだ口調に、わたしはほっとする。
「めんどくさいだけでしょ」
(え……っ。)
気が付いたらわたしは走っていた。階段を駆け上がり自分の教室へ入ると、席について荒くなった息を整える。
(『めんどくさい』……。)
京ちゃんの声が、頭の中をぐるぐると何度も駆け巡る。
そっか、わたし……ずっと迷惑かけてたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!