桜の声を聞く

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「ここだ」  俺は、小さくつぶやいて写真にあった手すりに近づいた。  その頃は、三つくらいだったから下の手すりの間から見ている構図だったけど、今の俺は大人の目線だ。  展望台になっている天守台の手すりの近くにも枝垂桜があって、あの写真のようにはらはらと花びらが舞っていた。遠くに見える岩木山も青空に映えて綺麗に三つの山影が見える。  昨日祖母が夕飯の時に話してくれたことがあった。 「よく公園に連れてったんだよ。本当に笑顔の絶えない子だった。笑いかけられるとこっちまで笑顔になってしまう。小さいときから気持ちの優しい子だったよ」  祖母は一人の生活になかなか慣れないと言っていた。誰とも会話をすることもなく一日が終わることもあったそうだ。 「弘前の桜はね、誇り。あんなに手が届くくらいの桜ってまずないから? ゴールデンウィークに桜が咲くように、冬には根本に雪をかぶせたりするんだってよ」
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