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手紙には一言、「夜明けのコーヒーは二人だけのものだったのに」と書かれていた。
はじめは何のことかわからなかった。そんな約束をした覚えはなかった。
だけど、僕は思い出した。ふとした瞬間に、朝見た夢の内容が蘇ってくるように。
あの日、彼女は桜の舞い散る中を歩いて来たのだった。そして――。
彼女にとって、僕が最初に飛ばしたジョークが、それほどの意味をもつなんて、僕は知らなかった。
きっと、彼女にとっては大切なことだったんだろう。
僕にとってはどうでもいいことだったのに。
――いや、そうじゃない。
僕は思い直す。
おそらく僕にとっても。
彼女が去って、二年も経った今、ようやく僕は気づいた。
僕にとってもそれは大切なことだったんだ。
彼女の顔に、花が咲いた瞬間。僕と彼女の心が結ばれた瞬間。
だけども、僕は恐ろしいほど鈍感で。
それで彼女は去ってしまった――。
僕は窓の外に目をやった。
今年もまた桜の季節がくる。
桜を見ると、僕は彼女の姿を探してしまう。
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