桜とコーヒー

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 桜の季節に、僕らは出会った。  その日は風が強く、花を散らして、空気まで桃色に染まったみたいだった。僕は、スノードームの桜版を作ったら、きっと売れるんじゃないか、なんてことを考えながら、カフェのイスに座っていた。透明なガラス球を、キラキラと桜の花弁が降り注ぐスノードーム。  絵の具を流したような桜吹雪の中、彼女はやってきた。  髪の毛とスカートをはためかせながら、彼女はだけど楽しそうに、桃色の中を歩いていた。スノードームには、絶対女の子の人形は必要だ。そう思った。  桜の木の下にいる彼女を一目見るなり、僕は夢中になってしまった。  だから、駆けていって、言ったんだ。 「僕と一緒に、夜明けのコーヒーを飲もう」 「えっ」 「変な意味じゃなく、ホントにコーヒー飲むだけ」  彼女はクスクス笑った。つまらないジョークは、一周回って彼女の顔を綻ばせた。顔に、桜の花が咲いたみたいだった。僕の作戦勝ちだ。
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