桜とコーヒー

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 それから僕らはいろんなところへ行った。新緑の果樹園、東北の民家、うらびれた温泉街……。  仲の良い小動物みたいに、僕らはいつも一緒だった。彼女がいれば、どこへ行っても楽しかった。彼女は僕の心に春をくれた。  そうして僕らが出会ってから、三度目の桜が散った。  僕は彼女のことをほとんど何もかもわかった気でいた。  だけど、わかっていなかった。全然わかってなんかいなかったんだ。  ある日、僕は友人と、友人の別荘へ遊びに行った。 「ゆっくり羽を伸ばしておいで」彼女はいつもの桜みたいな笑顔でそう言った。  友人の別荘は、海辺にあった。テラスの白いイスに座ると海が一望できた。巨人が、巨大な本の青いページを開いているみたいに思えた。僕は彼女にも見せたいと思った。  バーベキューをしているうちに、夕暮れがやってきた。  僕らは水平線に赤い夕日の沈むのを、そのテラスで眺めた。巨人のページは、今度は赤く染まっていた。彼女がいたら、何て言ったろう? 今度は絶対、連れてこよう。そう誓った。
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