0人が本棚に入れています
本棚に追加
それから僕らはいろんなところへ行った。新緑の果樹園、東北の民家、うらびれた温泉街……。
仲の良い小動物みたいに、僕らはいつも一緒だった。彼女がいれば、どこへ行っても楽しかった。彼女は僕の心に春をくれた。
そうして僕らが出会ってから、三度目の桜が散った。
僕は彼女のことをほとんど何もかもわかった気でいた。
だけど、わかっていなかった。全然わかってなんかいなかったんだ。
ある日、僕は友人と、友人の別荘へ遊びに行った。
「ゆっくり羽を伸ばしておいで」彼女はいつもの桜みたいな笑顔でそう言った。
友人の別荘は、海辺にあった。テラスの白いイスに座ると海が一望できた。巨人が、巨大な本の青いページを開いているみたいに思えた。僕は彼女にも見せたいと思った。
バーベキューをしているうちに、夕暮れがやってきた。
僕らは水平線に赤い夕日の沈むのを、そのテラスで眺めた。巨人のページは、今度は赤く染まっていた。彼女がいたら、何て言ったろう? 今度は絶対、連れてこよう。そう誓った。
最初のコメントを投稿しよう!