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3
数日間、男は何でも思い出せることが嬉しくてしかなかった。
だがそうなると、今度は別の悩みが現れた。嫌な出来事もずっと残ったままなのだ。
そこで男は再び医者の元を訪れた。
「あの装置を使ってから物忘れはなくなったが、今度は嫌な記憶まで残ったままだ。なんとかできないだろうか?」
「今度は忘れたいとそういうことかね?君という男はずいぶんとわがままだな」
「金なら何度でも出す!だからなんとかしてくれ!」
男はずいぶんと参っているようだった。
「ふむわかった。なんとかしてみよう。」
ところが、今度は数ヶ月たっても医者が訪ねてくるどころか、連絡すら来なくなった。
どういうことかと怒った男は医者の元へ駆けつけた。
「おい、前に話した忘れる装置のことはどうした?」
ところが医者はそんな話はしていないと言う。
「ははーん、さては装置を試して、作ったことすら忘れてしまったんだな」
医者は違うと否定するが、男は医者のそばにおいてあった白い箱を見つけ出した。
「これがそうか、ではこれは約束通り持っていくぞ」
やたらと反対する医者から無理やり装置を奪い取ると、男は自宅へ持ち帰り、その晩に試してみることにした。
「あの医者の様子をみると、効果は確かなもののようだ、では早速使ってみることにしよう」
男はその装置と頭をつなぎ、ボタンを押して眠りについた。
翌朝、医者は男の家へやってきて、外を眺めながらぼーっとしている男を見つけた。
「やはりこうなってしまったか」
「装置を作ってみたはいいが、これを使ってしまえば記憶を全部消してしまう」
「つまりは、生まれてからの記憶が全部真っ白に消えてしまうということだ」
「今、男の頭の中は、生まれたばかりの赤ちゃんと同じ状態だろう」
「だから、作らなかったことにしておいたのだが、まさかこうなるとは」
「しかしこれで、忘れる恐怖すら忘れることができたというのは不幸中の幸いというべきか──」
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