門出の時に

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アンタが眠っても、俺の目は冴えたままだった。スマホの画面を見つめてもアンタが気になってしまう。 すると背中に暖かいものを感じる。京弥さんが俺の背中にくっついて寝ている。 思わず、何なのかよくわからない声が出そうになったけれど、頑張って堪えた。 京弥さん、くっつかないで下さい…爆発しそうです。 想像以外にべったりとくっついていて、俺のパジャマを掴んでいる。 ダメだ、現実を見てはいけない。 そうだ嫌な事を考えよう。姉から受けた嫌がらせを思い出そうとしても、今の気分では、まぁ、いっかとなってしまう。 この人、寝るとくっつき虫になるのか? 俺はゆっくりとパジャマを掴んでいる手を解いてアンタの方へ向き直す。 美人は眠っていても美人だ。このまま連れ去りたい。眠れる森の美女の王子ってこんな気分だったのだろうか…まぁ、目の前で眠っているのは男だけど。 無意識に人を惹きつける美しさと、俺にはない色っぽさ。 アンタが悪いんですから… 美味しそうな唇が目の前にある。食べてしまいたい衝動に駆られる。ダメだもう抑えきれない。 ゆっくりとアンタの顔に自分の顔を近づける。 だけど、実際に唇と唇がくっつきそうになると、俺の中で生まれたのは歓喜より罪悪感だった。 ごめんなさい、京弥さん。でも、アンタの事が好きなんです。 唇にキスをする勇気は消えてしまい、俺はそっとおでこにキスをした。 その後は興奮して寝れなかった。 健全な男子高校生が好きな相手には額にとはいえ、キスをしてしまったのだから。 だけど俺の中では色んな感情が生まれた。いくら自分が好きな相手とはいえ、恋人でもない先輩に対してなぜこんなことをしてしまったのかという後悔と、額にキスできたという充実感と、それ以上のことをしてしまえばよかったのではないかという支配欲が渦巻いている。 俺はアンタの掌に自分の掌を重ねる。 あたたかいアンタの体温が流れてくる。そうすると興奮が少し治る気がした。きっと今日は熟睡なんて出来ないだろう。だから今くらいはずっと好きな人の手を握っていたい… アンタの掌にキスを落とす。そして、また優しく握る。 「京弥さん…俺は、京弥さんの事を愛してます…」 俺は眠っているアンタにそう囁く。 自分の本当の気持ちを言葉にすると、モヤモヤした気持ちは少し晴れるけど、なぜだか目の奥がジンワリと熱くなった。
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