はじまりの音色

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10月から3月になるまでは一瞬だった。 日本の高校を受験して、色んな手続きをして。 あっという間に俺の日本行きの日が来て、新しい家、新しい環境で暮らして行くことになった。 日本行きに嫉妬していた姉も、最近は「ねぇ、葵ちゃん行っちゃうの?行っちゃうの?」とうるさいくらいに俺にまとわりついて来た。 「ねーちゃん、なんでそこまでして日本に行きたいの…」 日本へと立つ前日の夜、日本へと固執する姉へと俺は疑問をぶつけてみた。 日本と文化は違うかもしれないが、ここロンドンだって住みやすいところだとは思う。 何年か前の夏休み、まだ、姉が中学生だった頃だと思う。母と姉は母の実家がある京都へと帰省したことがあった。 まさか、母も何年か先に自分が日本へと行くことになるとは思ってはいなかっただろう。 日本から帰ってきた姉は、目を輝かせながら、俺に「日本はすごいところよ!」と説いて来たのを覚えている。内容としては、寺がとか、城が…とかなんたら言っていたが、特に興味のなかった俺は聞き流していたことを覚えている。それからの姉の日本へのハマり具合は加速していった。 「そんなに日本好きなら、日本の大学受けりゃよかったじゃねーか。」 「ばかね、あんた、下宿するのってお金かかるんだから!大学の授業料だってあるのに、家族がロンドンにいて、行きたい学部もロンドンにあったら日本へ行こうなんて思わないって。」 この姉が普通のことを考えていたなんて思わなかった。 「ま、葵ちゃんたちが日本へ行くから、拠点は出来たわけだし、私にとって悪いことばかりじゃないのよ。」 「でも、俺たちが暮らすのってヨコハマってとこだけど…姉ちゃん好きなのって京都だろ?」 「横浜にな新幹線あるから、京都になんてすぐ行けるって。でも、横浜なら、東京に近いからいいじゃない。イベントにもすぐ行けるし。もう、DVD越しにしか見れないなんて、完全に諦める必要がなくなったから、茜ちゃんは幸せよ。」 「ふーん。」 この時の俺は、姉の言っているイベントが何なのか理解していなかった。 後に分かったのは、姉が日本へ行った時に持ち帰って来たのは、神社仏閣、侘び寂びの古き良き日本文化と、深夜アニメだった。 持ち前の探究心を発揮して、姉は色んな意味での日本にどハマりしていたのだ。 ーこんな傍迷惑な姉だけど、後々、俺は救われることになる。
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