はじまりの音色

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ロンドン・ヒースロー空港から成田空港まで約12時間のフライト。 飛行機がロンドンからどんどん遠ざかっていくのと比例して、俺の気持ちもどんどん沈んでいった。 俺の頭上の収納棚に、相棒のアルトサックスがいる。チェックインをする時、「絶対に機内に持ち込む」と言い張った。運が良く、機内に持ち込めるギリギリの大きさだったのが幸いした。 もし、大きさがオーバーしていたら、楽器を組み立てて抱えて持ち込んでやろうと思っていくらいだ。 大丈夫だ。こいつがいれば、俺はきっと寂しくなんてない。 そう思うと少し気がラクになってきた。 「ねむて…」 飛行機がロンドンを飛び立ってからだいぶ時間がたっている。頭上にいる相棒のことを考えたら安心して、急に眠気が襲って来た。 日本へ来て、高校の入学式が近付くにつれ、寂しさと不安を紛らわす為に、俺はアルトサックスに触れる時間が長くなった。 高校の入学式の前日なんて、ほぼ一日中アルトサックスを吹いていた。 メトロノームをテンポを60に合わせて、チューナーをベルに取り付けて、チューニングB♭をする。 うん、今日も調子は良い。 それから、ロングトーンを。 今日は俺が一番好きな曲を吹こう。 俺がまだ小学生だっとき、はじめての発表会で演奏した曲… 「星に願いを」 何度も演奏した曲だ。だから運指は完璧に覚えている。 気持ちが落ち着く。
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