はじまりの音色

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堅苦しい入学式が終わった。 長々と話す校長先生の話なんてほぼ聞いていなかった。 入学式へ出て分かったのは、この学校には俺たちが通う普通科と理数科があることだった。 やたら男ばかりのクラスがあるなと思い、出席番号が後ろのやつに聞いてみたら、それは理数科であるとのこと。 1年5組が自分のクラスだ。何組になってもどうでもいいけど。少しだけ、クラスのホームルームがあって解散となった。 家へ帰ろうとした時、かすかに聞こえる楽器の音。母も音に気づいたみたいだ。 「葵は部活入るの?」 「そんなの決めてないよ、今日入学したばかりなのに。」 「吹奏楽部あるよ?」 ママ調べちゃったと、この学校のホームページをスマートフォンの画面越しに見せてくる。 校門を出るか出ないかの時、 ふわりとした優しい音がした。 「ねぇ、葵?この音、アルトサックスじゃない?」 「弦楽器みたい…」 俺の音とは全然違う、やわらかい優しい音。 そして、俺の心をほぐしていく。 この温かい気持ちはなんだろう。 この音を出す人間に会いたいな… それがおれの率直な感想だった。 慣れない、日本の学校生活がはじまると思うと、正直、嫌だなと思うこともあるけれど、 この学校には、 こんな優しい音で演奏する人がいる。そう思うと、少し明日からの学校生活が楽しみになった。 「葵、今日初めて笑った。」 母が嬉しそうに笑った。 今日は雲ひとつない晴天、暖かな日差し。 見上げれば、ピンク色が広がっている。満開の桜が空を埋め尽くしていた。
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