619人が本棚に入れています
本棚に追加
/481ページ
堅苦しい入学式が終わった。
長々と話す校長先生の話なんてほぼ聞いていなかった。
入学式へ出て分かったのは、この学校には俺たちが通う普通科と理数科があることだった。
やたら男ばかりのクラスがあるなと思い、出席番号が後ろのやつに聞いてみたら、それは理数科であるとのこと。
1年5組が自分のクラスだ。何組になってもどうでもいいけど。少しだけ、クラスのホームルームがあって解散となった。
家へ帰ろうとした時、かすかに聞こえる楽器の音。母も音に気づいたみたいだ。
「葵は部活入るの?」
「そんなの決めてないよ、今日入学したばかりなのに。」
「吹奏楽部あるよ?」
ママ調べちゃったと、この学校のホームページをスマートフォンの画面越しに見せてくる。
校門を出るか出ないかの時、
ふわりとした優しい音がした。
「ねぇ、葵?この音、アルトサックスじゃない?」
「弦楽器みたい…」
俺の音とは全然違う、やわらかい優しい音。
そして、俺の心をほぐしていく。
この温かい気持ちはなんだろう。
この音を出す人間に会いたいな…
それがおれの率直な感想だった。
慣れない、日本の学校生活がはじまると思うと、正直、嫌だなと思うこともあるけれど、
この学校には、 こんな優しい音で演奏する人がいる。そう思うと、少し明日からの学校生活が楽しみになった。
「葵、今日初めて笑った。」
母が嬉しそうに笑った。
今日は雲ひとつない晴天、暖かな日差し。
見上げれば、ピンク色が広がっている。満開の桜が空を埋め尽くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!