はじまりの音色

7/11

619人が本棚に入れています
本棚に追加
/481ページ
朝起きて学校へ行く支度をしていると、母は「葵、早いのね。」と言ってきた。 母は何を言っているのだろうと、その時は思った。 「行ってきます!」 初日から遅刻はできないと思い、俺は家を出た。 電車に乗ってみると、あまり人がいない。 スマートフォンを見ると、まだ時刻は7時10分だった。 目覚ましを1時間以上前に設定してしまったみたいだ。7時にコールが鳴ると思い込んでいた俺。 だから母は、早いのねと言ったのか。 横がけの座席に腰を下ろす。 隣を見ると同じ制服を着た人がいた。 キッチリと制服を着ていて、楽器ケースを脇に置いて、教科書を読んでいる。 あれは、アルトサックスだよな… 昨日のアルトサックスの音が蘇る。 黒髪に、少しタレ目がちな瞳。顔は人形か?と思うほど整っている。驚くほど美人がいる。 大人しそうな印象だし、何よりも、とっつきにくそう… この人、多分取っ付きにくくて最初友達できないタイプだろうな。 騒ぐのは苦手そう。 と、勝手な印象を持って観察してしまった。 制服きっちり着て、露出も少ないのに、俺には少しエロさを感じた。 「おはよー、今日も朝勉強してるのー?偉いねー。」 柔らかそうなオーラをまとった同じ制服の優男が電車に乗り込んできた。 「おはようございます。」 「理数科も世界史やるんだね、」 「必須ですから…」 「でも、センターはみんな地理とか公民でしょ?」 「そうみたいですね。」 「あー、おれも勉強しないとなー。受験生やだなー。」 「どこ狙ってるんでしたっけ?」 「取り敢えず、国立の理学部。滑り止めの私立も受けるけどさ…」 驚くほど美人は、少しハスキー掛かった声に、おっとりとした話し方。 俺はこの人をいつまでも見ていたいな…と思ってしまった。 「京弥、今年は吹奏楽部に1年生何人入るかな?」 「たくさん入部して欲しいですね、」 「おれらのパートに1年生来てくれるかな。」 「来て…欲しいですね…」 「2人じゃキツイよな…」 2人の間に沈黙が生まれる。 しかし、優男は急に「考えても仕方ないし、それより、今日帰りにたい焼き食べたい!」と話題を変え、驚くほど美人も「あそこのおばあさんのお店ですか?」と返していた。 学校に着くまで、驚くほど美人と優男は全く中身ない話から勉強の話までコロコロと話題を変え、笑いあっていた。 まさか、この2人が俺の先輩になるなんて思ってもいなかった。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

619人が本棚に入れています
本棚に追加