はじまりの音色

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俺は背が高めだから、運動部の勧誘もあった。 この学校は必ず部活に入ることになっている。 休み時間、クラスメイト達はどの部活に入るかで話題は持ちきりだった。 色々な部活の名前が飛び交う。 どんな形でもいいからサックスに触れていたい。 そしてなによりも…入学式の日に聞いたあのサックスの音色を探して… 放課後、俺は音楽室の扉を開けた。 「1年生?吹奏楽部の見学?」 「は、はい!」 後ろから声がするので振り向くと、朝電車が一緒だった優男が立っていた。 音楽室に入ると俺と同じ1年生達が先輩の話を聞いたり、楽器に触っていた。 「えっと、何かやりたい楽器とか、気になる楽器とかある?」 「アルトサックス…です。」 「アルトサックス?!」 「はい…」 優男の顔は見る見るうちに嬉しそうなものに変わる。 「まじ!?何なら今から吹いちゃう?学校のだけど、アルトサックスあるよ?」 「良いんですか?」 涼太ー、この子アルト希望かもしれないけど、他の楽器はいいか聞いてやれよー と、どこかから、興奮気味のこの優男先輩に対しての声がする。 優男先輩はハッとして、他の楽器で気になるのあったら言ってねと呟いた。 「男子って、ほら、トロンボーンとかペットとか、パーカスやりたいって子多いけど…」 「俺、本当にアルトが良くて…」 「もしかして、アルトの経験者?」 「はい、小学生の時から。」 「まじで!即戦力じゃん!」 優男先輩に連れられて、音楽準備室にサックスを取りに行く。 「えーっと、」 「すいません、名前ですよね?」 優男先輩にアルトサックスをケースごと手渡された。 ケースを開けると少し錆びたアルトサックスとご対面した。 「そーそ、なんて言うの?おれは3年で、藤吉涼太ってゆーんだけど。あ、ごめん、全然使ってないやつだから、これおれのグリス使って。あと、リード。これ、新品だから、ボツかもしんないけど。」 藤吉先輩は、俺にグリスとリードを渡してくれる。 俺はサックスを組み立てながら、「俺は、南條葵って言います。」と答えた。 「南條君はどこの中学の吹奏楽部だったの?」 「俺、実は中学までロンドンで吹奏楽やってて…」 「へー、帰国子女ってやつか。」 「そうなりますね。」 「サックスずっとやってるってことは、マイ楽器は持ってるの?」 「はい。」
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