想い出アルトサックス

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「いらっしゃいませー!」 バイト君の威勢のいい声が響く。 いつもなら、声をかけるだけなのに、何か話し込んでいるようだ。 嬉しそうな雰囲気が伝わってくるので、知り合いが来たのか? 何分かすると、バイト君が俺の元へやってきた。 「川上裕紀さんが来てます!葵さんに会いたいって!」 川上裕紀…今、世界でも注目されている、サックス奏者。 「今、行く。」 カウンター越しに、切れ長の目、癖のない黒髪、鼻筋の通った顔立ち。悔しいが何度見てもカッコいいなこの人。 「久しぶりだな、連絡もしないでごめんな。」 「川上さん、お久しぶりです。どうしたんです?」 「腕のいいリペアマンがいるって聞いて、やってきました。」 「お世辞なんていいです。」 「お世辞じゃねーよ。オレの楽器だって、お前に世話になってるじゃないか。」 「昔から知り合いで贔屓にしてくれてるだけでしょう?」 ここまで有名になれば、もっと腕のいいリペアマンに楽器の修理を頼めばいいのに。 いつもこの人はわざわざ、俺のところに楽器を持ってくる。 日本にいた時、高校だって違うのに、何かと接点はあった。 …そうだ、あの人の幼馴染みだから、あの人を通じて、話したりして… 俺がリペアマンの専門学校へ通っているとき、川上裕紀は音大生で、ロンドンへ留学に来ていた。 街でバッタリ会うという漫画のような再会をして、元々顔見知り程度だったけど、音楽という畑の中にお互いいることもあって、すぐに打ち解けた。 それからは、彼がロンドンにいる間、よく会うようになって…最後の方は、ほぼ俺の家に彼は上がり込んで生活をしていた。 新人リペアマンとして働き始めて、お客様第一号になってくれたのは、川上裕紀だった。
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