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「でも、来年も全国行きたいよな。」
「行くに決まってんだろ、今から弱気になってどーすんだ。でも…公立高校がさ、オーボエ2本いたっつーのはある意味奇跡だったよなとは思ってる。今年はファゴットも経験者が入ってくれたのはラッキーだったし。新入部員が入ったらオレはダブルリードの魅力を伝えて少しでも人数増やしたい。」
慎太郎は夢と現実をしっかりと受け止めていて、その上で話している。
「来年は新入部員をたくさん入れないとね。勧誘頑張ろう。」
「後は受験だな…」
「そうだね…」
「オレは元々国公立は諦めってっから、必要科目だけ集中させて伸ばしていくぜ。たいちゃんはどーすんの?決めた?」
「まだ。あー、進路決まらないよ。葵やしんちゃんはすごいよ。」
この2人と旬には、俺の進路は伝えてある。最初は驚いたみたいだけど今は、お金が溜まったらイギリスに遊びに行くわーと言ってくれている。
「こーゆーのは勢いだけで決めるなよ?」
「分かってるよ。」
慎太郎が立ち止まり、あ、そうそうと、思い出したかのように言う。
「あんさ、今日、世那先輩に告ったんだけどさ、フラれたわ。」
俺は思わずカバンを落とし、たいちゃんは空いた口が塞がらなかった。
「い、今言うことかよ!ビビらせんな!」
「だって、事実だし。」
「え、あ、ふ、フラれたの…」
「おう。」
「いつの間に告白したの?」
「世那先輩が帰る時。」
じゃあ、片付けの時にはフラれた後だったのか…
だから俺が貰ったネクタイに過剰反応したのか…
「告ってスッキリしたけど、その分…悲しい…ぜ…」
慎太郎は泣き声を上げずに目から涙を零している。やめろよ、今日は卒業式で涙腺が緩いんだ。それはたいちゃんも同じらしく、目に涙を溜めている。
2人で慎太郎に駆け寄って、道端だけど3人で蹲って泣いた。
だけど、慎太郎…?お前は強いよ。ちゃんと好きな人に好きだって告白出来たんだから。俺みたいに、好きどころか、言いたいことも言えずにいる奴より何倍も立派だよ。
俺がもし、京弥さんにフラれたらどうなっちゃうんだろう…
告白すらしてない癖に、俺は京弥さんに勝手にフラれた想像をして、慎太郎と自分を重ねて泣いた。
だけど、頭の奥底は冷静で、ホント自分ばっかじゃねーの?何もしてないくせに悲劇のヒーロー気取りは恥ずかしいんじゃないのか?と考えていた。
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