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ドアノブに手を掛けると、急に緊張感が増す。
「葵ちゃん?開けないの?」
「すんません、俺もドキドキしちゃって…」
「せーので開けよ?一人は怖いじゃん。」
せーの、と言って2人でドアを開ける。
ドアの向こうには、地味なベージュのスプリングコートに身を包んだメガネ姿の京弥さんが立っていた。
「こんにちは…おじゃまします…」
「京弥…」
アンタは涼太さんに気付くとパッと顔が明るくなり、お久しぶりです、と言った。
「結果なんですけど、市大に合格しました。」
俺達3人の間に一瞬沈黙ができる。
この人、合格って言ったよな?!
「お邪魔するし、ケーキ買ってきました…」
ポカンとしているアンタは手にケーキの箱のような物を持っている。
「おめで…」
「なんで、一言連絡入れてくれなかったんだよ!落ち込んでたらどうしようって心配したじゃん!」
俺が祝福の言葉を言おうとしたら、涼太さんの迫力に押されて思わず黙った。
「ごめんなさい、スマホの電池が切れちゃって…」
「大事な日に充電切らすとかバカ!」
ひとしきり京弥さんに文句を述べる涼太さんだったけど、その表情はとても嬉しそうだった。
京弥さんは、大学に合否を見に行った後、ご両親と俺達に連絡をしようとして、スマホを取り出したら画面が真っ暗だったらしい。
高校には合否の連絡をしないといけないので、大学から高校へ行き、直接先生達に報告をしたとのこと。
予定よりも遅れて俺の家に到着することになってしまったので、お詫びも兼ねてケーキを買ってきてくれたそうだ。
「騒いだらお腹すいた。京弥が心配でお昼も食べてないんだよ?ね?葵ちゃん。」
「母さんが簡単に作れそうなもの材料用意してくれてますし、出前取っても…」
「京弥はお昼食べた?」
京弥さんは首を横に降る。
「葵、キッチン借りてもいい?2人に心配かけたお詫びに昼ご飯作ります。」
涼太さんは自分のカバンからスマホの充電器を取り出すと京弥さんに渡した。葵ちゃん悪いけどコンセント貸してやって?と言うので、もちろんお安い御用ですよと応え、スマホの繋がった充電器をコンセントに挿した。
「両親より先に2人に合格報告してしまいました。」
「充電できたらご両親に連絡しような。」
「あと、浜松のホテルにキャンセル入れないと。」
京弥さんがキッチンへ向かおうとすると、涼太さんは、手伝うよ?付いていく。俺も向かおうとすると、葵ちゃんは座っててと言われた。
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