門出の時に

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翌日のお昼前に京弥さんの家に行くと、もう、たこ焼きの準備はしてありますよ?と言われた。 昨日は涼太さんと夜中までたくさんのことを話したから若干眠い。 「たこ焼きは夜食べるとして、これからどこか行きます?」 「どっか行きたいとこあります?」 「おれ、今、海なし県にいるから、海見たいかも。」 「じゃあ、江ノ島行きます?」 「いーねー!」 「えの、しま?」 「そ、鎌倉の近くの島だよ。」 俺達は一時間くらい電車に乗って江ノ島駅に到着した。 涼太さんは今、海のないところにいるのか。 まだ3月で海に入ることはできないのに、隣ですごいはしゃいでいる。 日本はイギリスと同じ島国だから、海は身近なものだと思っていた。 そうか、海がない県もあるんだ…日本地理を習った時にわかっていたはずだけど、目の前が港の生活をしていると忘れてしまう。 「島はあの橋の向こうのこんもりとしたとこね。」 島に上陸しようとしたら、涼太さんがすぐ近くの砂浜に降りてしまったので着いていく。 隣ではしゃぐ涼太さんと、相変わらず地味な格好の京弥さん。 涼太さんは海に片手を突っ込んで、冷たい!と言っている。 「ここの海もさ、イギリスと繋がってるんだよ?葵ちゃん。わかってても信じられないよね。」 当たり前の事だけど、そう言われると感慨深い。 すると京弥さんは俺の方をチラッと見る。 「そう思うと、寂しくないね…」 小声でアンタは呟くと左手を海に入れる。俺が来年はイギリスに行くことを想ってくれているのか。 「京弥、なんか言った?」 「いえ、何も。」 5分くらい3人で波際に手を入れたりして遊ぶ。 慎太郎や旬がいたら水をかけてきそうだけど、そういったことをしないのは、この2人が大人になのだろう。 長い長い橋を歩き、江ノ島に到着する。 「もう、お昼か。お腹空いちゃったね。」 「そうですね、何か食べましょうか。」 「海鮮丼食べたい! あ、葵ちゃんナマモノ大丈夫?」 「はい、お刺身でも何でも食べますよ。」 「じゃあ、おれのオススメのお店行こっか。」 鼻歌交じりに歩みを進める涼太さん。そんな彼の隣を嬉しそうに歩く京弥さん。 サックスが絡まないだけで2人の歯車はこんなに上手く回る。だけど、サックスがなかったらこの2人は出会わなかった訳だし複雑だ。 お互いがお互いに求めあっているものが違ったんだ。京弥さんはサックスを抜きで涼太さんが大好きだもんな。
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