門出の時に

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京弥さんの家に戻ると、早速、たこ焼きの準備に取り掛かる。俺はただ手際よくキャベツを微塵切りにしていく京弥さんを眺めているだけになってしまったが。 さすがたこ焼きパーティの発起人だけあり、涼太さんはたこ焼きを丸くひっくり返すのがとても上手だった。 「すごい上手ですね、俺、多分できないです。」 「コツがいるからね、練習すれば出来るよ。」 たこ焼きは、もちろんベーシックなタコ入りに、涼太さんがミニトマトとチーズ入れるとピザっぽくなって美味しいと教えてくれた。 「タコの入った普通のたこ焼きもいいけど、自分達で作るとアレンジ出来て楽しいですね。」 京弥さんは出来たての白身魚のトマト煮込みを持って席に着く。 「こうやってみんなで食べるのって美味しいね。」 一人暮らし始めてから、そう思うよ…とたこ焼きをひっくり返しながら涼太さんは呟く。京弥さんも、そうですね…としみじみと言う。父が戻って来たから人と食べる事って大事だって思いました…と付け添える。 「ほい、葵ちゃん。熱いから気をつけて行って食べな。」 たこ焼きはアツアツのフワフワで美味しい。 「はい、京弥も。」 「ありがとうございます。」 ずっと思っていたけれど、やっぱり俺はこの2人がニコニコと話している姿が好きだ。 「あ、そうそう。」 涼太さんは思い出したかのように 包みを取り出し京弥さんに渡す。 「合格おめでとう。」 「え?これ…」 京弥さんは、一瞬何が起こったかわからないという顔をしている。 「合格おめでとうプレゼント。」 「あ、ありがとうございます。 」 京弥さんは丁寧に包みのリボンを解く。 こういうところを見ると、ああこの人って丁寧だよなって改めて思ってしまう。 「定期券入れ…」 中からはレザーの定期券入れが顔を覗かせる。 「実家から通うって聞いたし、定期いるだろ?」 「ありがとうございます、すいません、気を遣わせちゃって…」 「去年おれの受験の時に、保温効くタンブラーくれたじゃん?葵ちゃんはもう栞をプレゼントしたって言うじゃないですか。だから、さ。」 「毎日大事に使います。嬉しいです…」 「おれも京弥からタンブラー貰った時、嬉しかったよ。今でも使ってる。」 心を込めた贈り物を貰った時ほど嬉しい物はない。 その人の想いがその物に宿っている気がするから。 そして、その物を使っている時、その人の顔が思い浮かぶから。
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