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「てゆーか、涼太さん、プレゼントいつの間に用意したんですか?」
合否なんて結果が出るまでわからないし、プレゼントなんて用意できるものだろうか。
「ん?昨日。」
「昨日?!」
確かに昨日は京弥さんが帰ってから、涼太さんと2人で駅ビルに行って買い物をした。
だけどずっと2人でいたし、買うタイミングなんて…
「葵ちゃんがトイレに行った時にパパッと買ったの。」
昨日、確かに俺は定期券入れや鞄の並んでいるフロアのトイレに行った。なぜか混んでいて少し並んだ。その間に買ったのか…
だったら俺にも一声かけてくれれば良かったのに…意地悪しなくても良くないか?
涼太さんの方を恨めしそうに見ると、プレゼントを貰って喜んでいる京弥さんを見て、嬉しそうにしている。
ああ、そうか、俺も同じか。
俺だけから京弥さんへ贈り物がしたくて、基紀も誘わなかった。結局、基紀と一緒に選んだけれど。それでもアイツは嫌な顔せずに付き合ってくれたな…
京弥さんは俺にとって大事な先輩であり、涼太さんにとっては大事な後輩なんだ。門出を祝ってやりたいという気持ちがあるのは当然な事だ。
「葵ちゃん、はいよ。」
涼太さんは俺の皿にたこ焼きを入れてくれた。じっと俺の顔を見て、唇の動きだけで、ごめんね、と言った。
俺はいたたまれなくなって、涼太さんが作ってくれた、たこ焼きを一口で食べた。
まだ涼太さんは、京弥さんの顔を見てニコニコしている。前から思ってたけれど、涼太さんって、京弥さんに結構感情を振り回されるんだな…2年前のコンクールの時に京弥さんがピリピリした音出してた時にブチ切れたり、時々だけど俺には京弥だったらこうだよねとか言うこともあった。
今は京弥さんが喜んでいるから嬉しそうだし…
思い過ごしだとは思うけど、自分の弟も推薦とはいえ大学合格しているのに、そのことよりも京弥さんの合格の方が喜んでいそうだなと見えてしまう。
「葵、どうしたの?黙ってずっとこっち見て。」
「お兄ちゃん達が二人で喋ってるのに嫉妬しちゃった?」
俺は黙って首を横に振る。
無意識に人の気持ちを振り回す京弥さんが少し怖くなった。彼が何をした訳ではない、彼自身は至って普通に過ごしているだけなのだから。
原因はその美貌と、おっとりとした人見知りの性格?いや、彼の中から滲み出てくる何かだろうか。
ああ、忘れていた。一番振り回されているのは、俺か。
「葵ちゃん、百面相してる…」
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